「娯楽本」の地本問屋と「学術書」の書物問屋
蔦重をめぐる人物とキーワード⑨
3月2日(日)放送の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第9回「玉菊燈籠恋の地獄」では、瀬川(小芝風花)の身請け話に接した蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/通称・蔦重/横浜流星)が、彼女に対する気持ちにはじめて気づく様子が描かれた。
■〝現実〟を突きつけられた吉原育ちの二人の恋

『江戸名所図会』に描かれた本屋(国立国会図書館蔵)。絵師・長谷川雪旦の手によるもので、版元は須原屋茂兵衛。劇中にも登場する鶴屋喜右衛門の店先の様子が描かれている。鶴屋は寛永年間(1624〜44年)に京都で開業し、万治年間(1658〜61年)に江戸に支店を出店。後に独立した。代々、喜右衛門を称している。
地本問屋に決別を言い渡した吉原の主人たちは、吉原の本を市中に売り広められなくなることの危機感について、それほど深刻に考えていなかった。再度の話し合いを希望する蔦重だったが、主人たちが首を縦に振ることはなかった。
そんな折、瀬川に身請け話が持ち上がる。相手が高利貸しで悪名高い鳥山検校(とりやまけんぎょう/市原隼人)と聞き、蔦重の胸がざわついた。20年来の自分の気持ちにはじめて気づかされた瞬間だった。
蔦重は瀬川に自分の気持ちを打ち明ける。初めて互いの思いが通じ合い、高揚する二人だったが、同時に困難な恋であることも承知していた。吉原内での色恋沙汰は御法度だからだ。そこで蔦重は、瀬川に足抜けを持ちかけた。
ところが、計画実行の直前に、小田新之助(おだしんのすけ/井之脇海)とうつせみ(小野花梨)による足抜けが失敗に終わるという事件が起こる。仮に、無事に吉原を抜け出したとしても、二人の行方に幸せなどないという現実を突きつけられた瀬川は、蔦重との将来を断念。鳥山検校の身請けを受けることを決意したのだった。
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